主な収蔵作品

菅井汲*

SUGAI Kumi, 1919-1996(大正8-平成8)

兵庫県武庫郡御影町(現在の神戸市東灘区御影町)に生まれる。本名貞三。大阪美術学校を経て、1937年、阪急電鉄に就職し、ポスターデザインに従事。52年渡仏。微妙な色調、繊細なマチエール、そして垂直方向に形態を配置する画面構成により、高い評価をうける。1950年代末からの、大きな色面、大胆な筆触を用いたカリグラフィックな作風を経て、60年代以降、幾何学的な形態を明快に打ち出した作品に転じる。67年自動車事故を起こし、完治するまで8年間を要する重傷を負ったことは、この傾向をさらに促進させ、制作を助手に手伝わせるために、色彩やフォルムはより簡潔、明快になっていった。83年、日本における初の回顧展開催。96年5月、神戸にて死去。

《天》 Ten(Heaven)

*画像はありません。

1960(昭35)
油彩・カンヴァス
162.0×130.5cm 

1952(昭和27)年単身フランスに渡り、東洋的な主題に着想を得て繊細で静的な作品を描いていた菅井汲は、50年代末から60年代初め、大きな変貌を遂げる。この時期の作品は、太い筆で描いたかのような量感のある線を特徴とし、円、三角、四角といった幾何学的形態を基本に、象形文字の骨格を思わせる単純で大胆な構成をとっており、ときに漢字の形態を解体、再構成して用いている。 《天》は、《鬼》(1958年、東京都現代美術館蔵)や《沖》(1960年、島根県立美術館蔵)とならび、このスタイルを代表する作品である。構図は、それぞれタイトルにもなっている漢字の形態に基づく。これらの作品における描線は、一見、書のように一気呵成に描かれたように見えながら、実際は、細かい筆触を重ねて慎重に描かれている。さらにその上から地に用いられる絵の具を重ねて形態が決定されており、地と図のせめぎ合いが画面の緊張感をいっそう高めている。この時期、菅井はのちの作品を特徴づけることになるシンメトリックな構図を確立しているが、これらの作品ではあえてそれを崩すことで、ダイナミックな動感を生み出している。
この作品は、ニューヨークのクーツ画廊における個展で発表され、その後、グッゲンハイム美術館の館長(1952~60年)を務めたジェイムズ・ジョンソン・スウィーニーの所蔵となった。アメリカにおける菅井汲の評価を伺い知ることができる作品でもある。