斎藤義重*
SAITŌ Gijū, 1904-2001(明治37-平成13)
東京に生まれる。日本中学在学中から油絵を始めるが、次第に文学を志し美術から離れる。1933年頃から美術に関心を戻し、構成主義の影響下に《カラカラ》のシリーズを制作。38年合板レリーフ《トロウッド》のシリーズを始め、二科九室会、美術文化協会に出品。戦後の一時期、《あほんだらめ》などの喜劇的人間像を描いていたが、次第に再現的要素を捨て、抽象表現主義的な作風で非具象絵画の旗手として一躍脚光を浴びる。60年代以降、現代日本美術展、ヴェネツィアやサンパウロ・ビエンナーレなど、内外の展覧会に出品し数多くの受賞を重ねる。その後、黒い板材の構築による《反対称》《複合体》などのシリーズによって新たな抽象表現の地平を切り開いた。
《複合体501》Complex 501
1989(平元)
木、ラッカー、ボルト
340.0×800.0×420.0cm
斎藤義重は、群馬県立近代美術館の建設計画当初に、当時建築家としては新進の磯崎新を設計者として推薦した作家である。「常に完成ということがなく、たえず進行の状態がそのまま形態となる」。作者の言葉どおり一見、展示途中かのように重なり、連なりながら置かれた黒い板木の構築。それらは、例えば当館の現代美術棟に展示されたとき、天井から降る自然光に照らされて、白い壁面との対比を見せる。こうして鑑賞者は、水平、垂直、均等といった視覚的な安定状態を入念に避けることによって生み出された、動きを秘めた空間の中に身を置くこととなる。そして、展示室を歩き回るうちに、斎藤のいう「時間的表現」の中にいる自分に気づく。
この作品は、1983年から始められ2001年に没するまでつづけられた《複合体》のシリーズに属する。長い作家活動の集約ともいうべき作品群の中にあって、本作品には、特に崩壊と構築の同時進行する不思議な空間が作り出されている。危うい均衡と揺るぎない存在感との緊張関係。斎藤の作品は、矛盾を内包したプロセスの表現でもある。 自らが期待した設計者のデザインによる現代美術棟のニュートラルな展示空間は、戦前から現実とは異なる空間を提示してきた斎藤にとって、理想とも思えるものではなかったか。