主な収蔵作品

ギュスターヴ・モロー

Gustave MOREAU, 1826-1898

《救済される聖セバスティアヌス》Saint Sebastian Succoured

救済される聖セバスティアヌス

1885頃
水彩、グワッシュ・紙
27.0×33.0cm

モローは、1870-80年代を中心に、聖セバスティアヌスの伝説の諸場面を《聖セバスティアヌス》(1870頃)や《殉教者に列せられる聖セバスティアヌス》(1876)などに繰り返し描いている。本作品の主題は聖女たちから手当てを受ける聖セバスティアヌス像で、この場面は17世紀オランダ絵画にしばしば登場し、フランスではジョルジュ・ラ・トゥールやドラクロワの作品に例がある。モローは69年に2点の油彩画においてこの場面を取り上げている。本作品では、古典的なデッサンにもとづく緻密な人体の描写と、グワッシュの透明感を生かした幽玄な空間の広がりが結びつき、深紅、紺碧などのモローならではの硬質な輝きを持った色彩が加えられ、時間や空間を超えた夢幻的な世界が演出されている。ここでは、聖セバスティアヌス像は、ルネサンス以来の伝統である苦痛のあまりむしろ恍惚状態に近い表情を浮かべた、美しい青年裸体像の系譜に連なる一方、全体的な構図は、やはりモローが何度も取り上げた「オルフェウス」「ピエタ」「よきサマリア人」等のテーマの作品群と共通し、聖なる存在に課せられた苦痛とそれに寄せる哀悼の念を表現している。モローは豊かな文学的素養を背景に、古典や聖書における様々なエピソードから、根源的なテーマを浮かび上がらせ、象徴的なイメージを紡ぎ出したのである。