主な収蔵作品

モーリス・ルイス*

Morris LOUIS, 1912-62

メリーランド州ボルティモアに、ロシア移民の家族の三男として生まれる。1932年、メリーランド美術工芸研究所を卒業。36年、ニューヨークヘ出てシケイロス主宰の実験工房に参加し、40年、公共事業促進局の連邦芸術プロジェクトの仕事に就いたが、43年には再びボルティモアに戻り、次いで53年、ワシントンヘ移住。同年4月のニューヨーク旅行で批評家のクレメント・グリーンバーグに会い、ヘレン・フランケンサーラーのスタジオを訪れたのをきっかけに作風は大きく変貌を遂げ、翌年、最初の「ヴェール」絵画が制作される。以後、晩年の58年から62年までの短期間に「ヴェール」「アンファールド(拡がりの)」「ストライプ」等の絵画を多数制作。作品は、アクリル絵具を生のカンヴァスに垂れ流し、染み込ませたもので、画面と色彩を一体化させた点を高く評価された。ワシントンで歿。

《ダレット・サフ》 Dalet Saf

*画像はありません。

1958-59
アクリル・カンヴァス
232.0×343.0cm 

モーリス・ルイスは、ケネス・ノーランドとともにカラー・フィールド・ペインティング(色面による場=フィールドの絵画)の画家と呼ばれる。本作品は、生のカンヴァスの上に流動性のあるアクリル絵具を垂れ流して、絵具をカンヴァスの地に染み込ませるステイニングと呼ばれる手法で制作されており、私たちがこの作品を見るとき、まず第一にそこに感得されるイメージが色彩によって構成されたものであり、第二に見ている対象がカンヴァスの地そのものであり、結果としてカンヴァスの平面と同一の場に画面が存在しているという状況が保証されている。
この事実が積極的に称賛された背景には、当時、ヨーロッパで築き上げられた西洋絵画の伝統から「絵画」を解放し、アメリカ独自の新しい様式を打ち立てようとしたモダニズム絵画の運動があった。つまり伝統的な絵画では、画面はカンヴァスの面から遊離して、幻影としての奥行き等を持った何か実体のない空間に構築されていた、ということが問題視され、それに対しカンヴァスの物理的な特性に従い、画面の「平面性」を厳格に確保することが称揚されたのである。
この作品はルイスの作品展開においては「ヴェール(幕)」シリーズに分類される1点で赤、青、緑、黄、オレンジの絵具を流し込んだのち、全体に淡い褐色がかけられて統一感を得ている。また、タイトルの《ダレット・サフ》はヘブライ語のアルファベットを2つ並べたもので、ルイスの死後、作品集の刊行に際してつけられたものである。