主な収蔵作品

作者不詳

Artist Unknown

作者不詳 《観月美人図》Beauty Viewing the Moon

観月美人図

江戸時代(寛文頃)
紙本着色・軸装
39.3×55.5cm
戸方庵井上コレクション

縁先にたたずむ女性というテーマは、浮世絵のなかにしばしば見受けられ、多くの場合、縁先美人図と呼称される。近年の研究によって、これらのほとんどが、『伊勢物語』第二十三段の「河内越え」を構想の下敷きにして制作された、見立てのひとつであることが明らかになった。幼なじみの男女が結ばれた後、男は河内の国の別の女に心を移して毎晩のように通い始める。それを快く送り出す妻に、夫はかえって疑念を抱き、河内に行くふりをして庭先の植え込みに隠れて見ていると、妻は遠くを眺めやりながら、「風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとりこゆらむ」と夫の安否を気遣うのだった。これを見た夫は妻を愛しく思い、改心する。
現存する作品のなかには、草木に隠れる男が描かれているものから、その構図が描き継がれているうちに、本来の物語からはなれ、縁先の舞台だけ借りたかのような例もある。本作品では、女の着物の裾に表された青海波(せいがいは)の文様が、歌意を象徴しているので、物語との関係は間違いないであろう。
ちなみに、縁先に女性が描かれていても、その傍らに琴が置かれている場合、『平家物語』の「小督(こごう)」の見立てである場合もある。古典の教養をもって絵画を読み解く見立ての構造は、浮世絵の世界では好んで用いられた。