福田美蘭*
1963- (昭和38- )
グラフィックデザイナー福田繁雄の長女として東京世田谷に生まれる。1985年、東京藝術大学美術学部絵画科を卒業。卒業制作展に出品した絵画《食事のないコース》が、サロン・ド・プランタン賞、台東区長賞を受賞。87年東京藝術大学大学院修士課程を修了。同年、第18回現代日本美術展に絵画《室内》を出品、佳作賞を受賞。89年、第32回安井賞展で安井賞受賞。91年、第7回インド・トリエンナーレ(インド、ニューデリー)にて金賞受賞。94年、VOCA展’94にてVOCA賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受けるとともに、個展・グループ展も多数開催。美術の既成概念に対して問題提起し、新しいものの見方を提示するというコンセプトのもと、斬新な作品を発表し、常に注目され続けている。
《道頓堀》Dōtonbori
2001(平13)
アクリル・パネル、蝶番
227.2×181.8cm
絵画の新しい見方を提示し続ける作者は、名画や巨匠の作品をパロディ風に異なった視点から描いて見せる、作品中にアニメのキャラクターを登場させ、著作権の問題に真っ向から挑戦するなど、モティーフにより問いかける作品を発表する一方で、絵画それ自体の持つ既成概念を打ち崩そうとする作品も発表し続けている。本作品は、2枚のパネルにより構成されているが、パネル同士をつなぐ蝶番で折り畳むことによって、上のパネルに描かれた絵の具が、下のパネルに移されている作品となっている。この絵具を移す手法はデカルコマニーといい、移し取られた先の絵具の様子が作者の意図を超えた表現となることから、エルンストをはじめとしたシュルレアリスムの画家に好んで用いられていた。本来抽象的な表現に用いられてきた手法で、華やかな電飾看板が水面に映る様子を表現することにより、大阪の象徴的なイメージとして選ばれることの多い道頓堀の喧噪や、近未来的なイメージを醸し出そうとしている。また、絵具が他に移る素材であることと、水が光を映すという性質とを結びつけており、画材自体にも目を向けさせるが、後で描き加えられた水面に映されていない上空の月や橋の欄干によって、絵具の転写にすぐには気付かせない演出もなされている。作者はいくつもの伏線によって、絵画について考える機会を生み出しているのである。