主な収蔵作品

髙橋常雄*

TAKAHASHI Tsuneo, 1927-1988(昭和2-63)

群馬県前橋市に生まれる。1960年武蔵野美術学校(現武蔵野美術大学)日本画科卒業、福王寺法林に師事。同年より日本美術院に所属、以後連続して入選し、71年第56回院展では《和雅の音》で奨励賞を受賞。74年ネパールを訪れ、ヒンズー教の神々と信仰に生きる人間をテーマに、院展に次々と連作を発表。75年第60回院展では《聖地巡拝記》が、80年の第65回院展では《聖地追想》がそれぞれ日本美術院賞・大観賞を受賞した。85年に日本美術院同人に推挙された。以後、故郷の風景や岩手の遠野などをテーマにした作品を描いた。

《故山春雪》Spring Snow in Mountains

*画像はありません。

1987(昭和62)
紙本着色
97.0×162.0cm

1985年以降の髙橋常雄は、それまで10年にわたって描き続けてきたネパール取材の画題を離れ、日本の風景をテーマに選んだ。そして画面も、寺院や神像、雑踏といったモティーフを充満させるものから、ただパノラマのように風景を切りとるものへと変化させる。この新たにはじめられた風景画は、85年2月の異歩騎会第1回展で初めて発表され、以降、常雄が88年に急逝するまでの3年間、描きつづけられた。  
富士、上高地、そして故郷の山河。はじめのうち、山々は陽を浴びて金や紫に彩られ、ネパールの連作にも通じる信仰の昂ぶりを感じさせた。しかしながら、常雄はすぐにこのような脚色を排し、「ネパール色」として作家の代名詞ともなった茶褐色さえ嫌がって、ついに雪景色を発見する。丁寧に仕上げられた独特のマティエールが際だつこと、なにより心の平安とも呼ぶべき象徴的な静けさが現れていることを見れば、これら雪景色こそは、常雄の風景表現の、まさに到達点であった。  
本作品に描かれる赤城山は、地元の人にとって欠かせぬランドマークであり、雪の降らない関東平野をわかつ境界点でもある。とくに寒いときだけ雪に覆われるその姿は、冷たい北風の感覚とともに、故郷の景色として人の記憶と身体に泌みついている。前橋に生まれ育った常雄にとって、赤城は自分の安寧のよりどころに等しいものだったか、画面はいよいよ静けさに満ちる。同年制作の《春雪榛名山》(院展出品)とともに、故郷を描いた常雄の代表作である。