主な収蔵作品

カミ-ユ・ピサロ

Camille PISSARRO, 1830-1903

デンマーク領西インド諸島セント・トマス島でフランス系ユダヤ人家庭に生まれる。パリで中等教育を受け、1847年セント・トマスに戻り、画家を志し55年再びパリに赴く。エコール・デ・ボザールに入学、59年にコローの影響を受けた戸外制作による風景画でサロンに初入選する。アカデミー・シュイスで知り合ったモネらと印象主義の画法を確立、74-86年にかけて8回の印象派展の全てに出品し、グループの要となる。66年からパリ近郊のポントワーズに住み、農村風景やそこに働く人々を、筆触分割による光の表現と緻密で堅固な構図によって描き出す。若い世代の画家たちの試みにも関心を示し、セザンヌ、ゴーガン、スーラなどとも親交を結び、80年代の終わりには一時新印象主義の点描画法を取り入れる。90年代末にはパリに戻り、視力の低下に悩みながらも窓からパリの街並みを描いて独特の俯瞰構図による都市風景連作を残した。パリにて歿する。

《エラニーの教会と農園》 The Church and the Farm at Eragny

エラニーの教会と農園

1884
油彩・カンヴァス
54.5×63.0cm

本作品は、1884年からピサロが定住するエラニーの教会と農園を描く。手前の草地や教会の建物の壁と屋根を、ピサロは垂直に並べた筆致で、また教会の前に高くそびえる樹木を、斜めに重ねた筆づかいで表現している。さらに草地の中央には明るい緑の色彩が、教会の尖る屋根を囲む樹木には深い緑の色彩がそれぞれ筆致にあたえられ、筆触と色彩の対比も試みられている。並列された筆致が強調されていること、また草の広がりや、建物、そして樹木が簡潔なかたちに表現されている点に、セザンヌの芸術の影響を指摘できる。
当美術館には群馬県企業局より寄託された、本作品と同じ84年に制作されたクロード・モネ《ジュフォス、夕方の印象》が展示されている。モネ作品との比較は、本作品にみられる、セザンヌを思わせる筆致の強い効果、大半が青を含む空の描写のなかで、画面左下に加えられた緑色の筆の動きなど、ピサロ独自の意欲的な試みを明らかにしてくれる。ピサロは83年にシニャックとそして85年にスーラと出会い、科学的な思考にもとづいた新印象主義の表現にひかれ、一時期点描を用いた作品を描くなど、印象主義にとどまらず新しい芸術運動に関心を払っている。実験的な試みに満ちた本作品は、当時のピサロの関心を伝える貴重な作品である。