アリスティード・マイヨール
Aristide MAILLOL, 1861-1944
南フランスの漁村バニュルス=シュル=メールに生まれたマイヨールは、1882年パリに出て、エコール・デ・ボザールに入学、絵画を学ぶ。やがて友人の彫刻家ブールデルを通して彫刻家ロダンの作品に強い印象をうけ、95年から彫刻の制作をはじめた。《地中海》など、自然の豊かなイメージを、休息する豊満な裸婦像に表現した彫刻を発表。匿名の女性の静謐なすがたによって、永遠の美しさを伝えるマイヨールの彫刻は、いまだ歴史や神話上の人物を彫刻の主題と考え、人間の感情を強調して表現することを当然とみなしていた当時の彫刻界に驚きをあたえた。抽象彫刻の誕生にいたる現代彫刻に影響をおよぼした代表的人物として評価は高い。自動車事故がもとでバニュルス=シュル=メールに歿する。1994年、パリ市にマイヨール美術館が開館している。
《ヴィーナスの誕生》The Birth of Venus
1918(1992鋳造)
ブロンズ
120.0×53.0×32.0cm
マイヨールは、簡素な造形による無名の女性のすがたによって、女性の永遠の魅力を追求した。マイヨールは1928年に代表作《ヴィーナス》を完成させる。本作品は18年にその最初の構想段階で制作された、顔、両腕を欠くトルソである。「ギリシャの彫刻は腕がない方が美しいことが多い」と述べたマイヨールは、トルソの美しさを讃え、トルソから制作を始めるのが常であった。
マイヨールにとって、ヴィーナスの名前が、永遠の女性を意味したように、かれには、個性的な顔や雄弁な手を欠くトルソこそ、普遍的で本質的な女性の美しさを表現できる最良のかたちであった。本作品は、すでに完成作品と同じように、右下に向かう首の動き、そして、左右それぞれ角度を違える両腕の傾きまで見事に表現され、力強い存在感に満ちている。なお、本作品と同じく、《ヴィーナス》の構想段階に制作された《ヴィーナスのトルソ》(1925)は国立西洋美術館に所蔵されている。