エミール=アントワーヌ・ブールデル
Emile-Antoine BOURDELLE, 1861-1929
南フランスのモントーバンで家具職人の子供として生まれる。15歳でトゥールーズの美術学校へ、次いでパリの美術学校へ行き、ファルギエールに学ぶ。しかし、アカデミズムの賞を目的とした作品制作に疑問を持ち、退学。ロダンを知り、その下彫り職人として働くようになる。初めロダンの強い影響を受けるも、《アポロンの首》を制作する1900年頃から、個人的な感覚よりも普遍的な形体を作品に求めるようになる。古代ギリシア、ローマの彫刻に学んだ《弓を引くヘラクレス》で自己の様式を完成させ、サロンで成功を博した。その後も神話を主題にした作品を制作する一方、《アダム・ミスケビッチ記念碑》や《アルヴェアール将軍騎馬像》などの記念碑や肖像彫刻も多く手がけた。近代フランス彫刻を代表する作家の一人で、日本人彫刻家にも大きな影響を与えた。
《巨きな馬》Monumental Horse (Cheval pour Alvear)
1914-17
ブロンズ
450.0×400.0×185cm
群馬県企業局寄託作品
1913年、ブールデルはアルゼンチン政府から、重要な記念碑像の制作を依頼された。それが、現在ブエノス・アイレスのラ・レコレタ広場に設置されている《アルヴェアール将軍記念碑》である。カルロス・マリア・デ・アルヴェアールは、アルゼンチン人の軍人で、国の独立をめぐる戦争では勝利に大きく貢献し、その後は政治家としても活躍した英雄である。ブールデルは、その依頼を受けてから1925年に除幕されるまでの約10年の間に、将軍像やその功績を表す4体の寓意像、馬というこの記念碑を構成する全ての彫刻について、57点もの習作を制作した。当館の正面に設置されているこの作品は、その過程の最終段階に制作された1点であり、ほぼ完成作に近い仕上がりの、独立した馬像となっている。ブールデルはこの記念碑のために、故郷モントーバンでは騎兵隊の兵舎に通って馬を観察し、イタリアを訪れた際には、ガッタメラータ騎馬像やコルレオーニ騎馬像といった初期ルネサンスの騎馬像に学んだ。本作品からは、ブールデルがこの記念碑の馬に与えようとした性質が明確に読み取れる。左前脚を曲げただけの押さえた動き、安定感のあるスタイル、やや誇張された筋肉は、馬の躍動的な面よりも、むしろその体内に秘められた力を感じさせる。様式美といっても良いほどの厳格な表現が醸し出す、堂々たる威厳と力強さ。それがこの記念碑像を通して、多くの芸術家や、清水多嘉示、柳原義達ら日本人彫刻家にも大きな感銘を与えたのである。