成長発展し、自由な発想の美術館
美術館が素晴らしいのは、成長発展すること、そして自由な精神だと思います。私は1980年代より複数の美術館の建設、運営に関わってからおよそ40年になりますが、その間の国内外の美術館の変化と成長はめざましく、美術館の存在が一変したように思えます。まず、美術館の収蔵作品や展覧会で扱う美術の定義とジャンルが拡大、越境しました。1980年代半ばにおいては、美術館では写真や建築、ファッション、ポスター、装飾美術、漫画・アニメーション、書籍・挿絵、書は、まだ芸術として十分に位置づけられておらず、企画展やコレクションは大変珍しいものだったのです。そのすべてのジャンルに関心をもち携わった私は、しばしそれまでの美術界と社会の常識の壁と、縦割りの専門性に突き当たり、驚いたものです。また「定評のある美」だけでなく、見失われた美の再発見をライフワークとし、さまざまな美術・美術家の研究・顕彰を行ってきた私は、この40年間に、そうした美術家の多くが、県立、市立美術館などによって地域の作家として研究、収集、展示され、再評価され位置づけられるのに助けられました。さらに、美術館で大きく成長発展した教育普及活動や、ライブラリー、アーカイブほかの美術情報ネットワークは、美術を国内外の社会全体に役立つものとして広げ、発信しています。そして多方面におよぶ現代の美術は、個人の才能だけでなく、広く時代の精神と人間の活動、歴史、文化を美の「かたち」として残す、地域と社会にとって掛け替えのないものとなっています。現代の美術館はそれらすべてに大きく関わっており、そのために十分な機能を備えた組織と建築があり、しかも象徴として存在していることを、その代表として重く認識しています。最初は誰でも初心者です。美術館が美や美術の出会いの泉となって、それが川の流れのように、しだいに大きな学びや喜びに成長発展することを願っています。
岡部昌幸(おかべ・まさゆき)
1957年横浜生まれ。早稲田大学第一文学部美術史専攻、同大学院文学研究科芸術学(美術史)専攻博士前期課程修了、横浜市美術館準備室学芸員、東京都庭園美術館専門調査員等をへて、帝京大学大学院文学研究科日本史・文化財学専攻教授(美術史)、2023年4月より同大名誉教授。2017年3月、群馬県立近代美術館館長に就任、2020年4月より特別館長。日本フェノロサ学会会長等を兼務。西洋近代美術および日本近代美術、ジャポニスムを専攻。