主な収蔵作品

浦上玉堂

URAGAMI Gyokudō,1745-1820(延享2-文政3)

江戸時代後期の南画家。名は孝弼、字は君輔。備前(岡山県)池田家の支藩鴨方の藩主政香の側近として仕える。仕官中に度々江戸に往来し、琴や詩、絵を学ぶ。1793(寛政5)年には官を辞し、翌年に春琴、秋琴の2子を連れて脱藩する。後半生は自由人として各地を遊歴し、晩年は京都に居を構えて作品を制作。渇筆や擦筆を多用し、繊細な筆遣いや僅かに施された透明感ある彩色表現によって、美しい心象風景を表す山水画を数多く描いた。

《山中訪隠図》Visiting a Mountain Hermitage

江戸時代
紙本墨画淡彩・軸装
123.0×56.0cm
戸方庵井上コレクション

玉堂の画風は、50歳で脱藩し、全国を行脚する生活を送る間に確立されたものである。リズミカルな筆致と繊細な渇筆とを駆使し、自然の深みや重みを画面に描き出しているが、中国の山水画をただ模倣するのではなく、独自の解釈のもとに表現している。玉堂が、七弦琴の名士であったことと、流浪の画人としての生き方が少なからず反映しているといえるだろう。本作品は、玉堂作品の中でも極めて簡素なものである。書き込みを極力抑えた風景は、人智を超えた自然の驚異を表現している。山中の隠者を訪れる文人が石橋を渡っている様子が手前に小さく描かれているが、広大な自然に立ち向かっていこうとしているのか、あるいは飲み込まれようとしているのか。いずれにせよ、この人物は玉堂自身であるといえるだろう。自由人としての人生を謳歌しながらも、強い孤独感が伝わってくるようである。